空港にて
音楽と人生の話を書き終わらない。今月中には。
先月末、空港で飛行機を待つ間に書きかけにしてしまった文章があったのでそれを載せたい。
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2016年10月27日のこと。
今僕は、インディラガンディー空港にいて、待ちぼうけを喰らっている。
いくら待ったところで、来るのは飛行機なんだけど首を長くして待っている。
考えてみると僕は空港に来る前から、インドに来る前から、社会人になる前からずっと何かを待っている気がしている。何を待っているのだろう。待ちぼうけ、というのは正確な言葉ではない。
今はインド時間の20時だ。
空港には17時に来て、今日から日本に一時帰国する予定だった。
予約していた19時発の便に乗るため、チェックインカウンターで搭乗手続きを済ませようとしたところ、お姉さんに「実はOved bookedなんだ」と告白された。
Over bookedというのは予約数が座席数を既に超えているということで、つまり僕の席がないということだ。
予約したにも関わらず、予約数が座席数を超えるようなことは偶にあって、上手く転んだ結果エコノミーからプレミアムエコノミーに無料で変更してもらったことが過去にある。だけど、今回のように席自体がないというのは初めてだった。
こういうトラブルでも、「You have 2 options, you can change the flight or wait here til check-in limit」などという具合に問いかけてくるから、この国は面白い。いやいや、オプションでも何でもないでしょう、という具合だ。
結果、キャンセルし深夜発の飛行機に変更してみた。キャンセル料及び振替便の費用は勿論航空会社負担だ。明日は日本で髪を切ってお寿司を食べるくらいしかやることはない。
ところが、変更した航空便は深夜1時発で、まだ搭乗手続きすら始まっていないため、ラウンジで寝ることも出来ない。僕はなんとか時間をつぶす必要がある。まず、空港の中を散歩してみたのだけれど、立ち食いのコーヒー屋さんが数件あるくらいで、ここにはゆっくり出来る場所はない。いろんなところに座って色々な国の人の顔を見るのが好きなので、ぷらぷら位置をずらすけど、椅子が硬くていやになる。
だから人と話す。いきなり話しかけるのは恥ずかしいので、電光掲示板を見に行くふりをして「ちょっと荷物みておいてくれませんか」とお願いする。すぐに戻ってきて、なんだか悲しそうな顔をしてサンキューといえば、どうしたのと尋ねてくれる。
「飛行機がover bookedで、別な便に変更になったので待っているんです」
「私も飛行機がディレイになって」
「何時の便?」
「一時過ぎよ」
「同じくらいだ、一時半。いったい何時にチェックインできるんですかね?」
「早くても、9時半ね、早くても」
「どこにいくんですか?」
「チューリッヒ、あなたは」
「東京に帰るんです、チューリッヒいいなあ、すごく行ってみたい、どのくらいいくんですか?」
「長い間よ」
「いいですね、長い間滞在したいです」
「あなたは東京に住んでいるの?」
「いや、ニューデリーに住んでいます」
「でも出身は東京なのね?」
「はい」
「ニューデリーのどこ?」
「DCです」
「ほんと?すぐ近く!」
チューリッヒに行くというインド人の女性はヨーロッパが大好きだと教えてくれた。自然が溢れ、美しい場所に「少し長い間」滞在すると言う。早口で僕に何しているの?どこで働いているの?何年いるの?と聞いてくる。僕は楽しくなって結局自分の話をしてしまう。僕にとって僕の話はどうでも良くて、僕がすごいと思うのは、スイスに目を輝かせるその表情で、そこには確信めいた憧れとそれに応えるだけの未来があるのだと感じる。欧州との距離と、休暇の捉え方が違うと明日の朝にはチューリッヒだー、みたいなことにもなるのだと思うとうらやましい。
すごく単純なことなんだけど、インドに長く滞在したい外国人がいて、インドの外に長く滞在したいインド人がいて、ずっと日本にいたい日本人がいて、結局人って一人ひとりばらばらだなあ、と思う。世界の見え方は何によって規定されるのだろう。僕がインドに求めているものを彼らはが別な場所に求める。
今いる場所から出て行きたいというのは幸せでない証拠だ。というようなことをミラン・クンデラが言っていたような気がする。
空港での時間潰しに飽きたら近くのホテルにでも言ってご飯を食べようと思っていたのだけれど、いざ外に出ようとしたら、銃を持ったおじさんに止められた。一旦空港に入ったら出られないそうだ。映画・ターミナルみたいにならないといいな、と思う。煙草も吸えないなんてつらいな。
そこでパソコンを開きブログを書こうと思ったわけだ。今日のここまでがまさにリアルタイムの僕でそこにリンクする時間について書くつもりだった。
ところで空港にいる人は皆飛行機を待っている。ジャストインタイムでの動線はどこにもなくて、みんな暇を持て余している。世界各国の人が暇を弄ぶ場所ってなんだか面白いと思う。
ブライアンイーノのmusic for airportsを聴いてもうしばらく時間をつぶします。